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第17回
新・風姿花伝
― 人は何故植物を枯らし続けるのか −
― 鉢花・山野草を枯らさないための秘伝公開 ―
【このコーナーを見ずして水くれを語るなかれ】
4.植物をびしっとしまった姿に仕上げるために
 水やりとは植物の欲しがる時に欲しがるだけやる、と言った。
 しかし、それでは欲しいだけとはいかほどなのかという問題が生じる。またどうしてわざわざ欲しいだけなんていうのかというと、美的な植物栽培家は、鉢もの植物を、ただ安全に生かし育てるだけでなく、また水ぶくれの水徒長の姿とするのでなく、びしっとしまった姿に仕上げることを無上の誇りとするからである。そのためには、植物には必要以上の水を与えないようにすることが非常に重要である。

23万円でオークションに出された五葉松の盆栽。樹高54cm、左右63cm。
丈夫な松も水やりの上手・下手で育ちは大違いとなるものである。

(写真提供:近代出版)

 ところがこれは普通の人の対応できる範囲をはるかに越えたプロ中のプロがやることである。私の知る限り、これを厳格に実行している人は一人もいない(じゃあプロはどこいっちまったんだ、なんて質問はしないでほしい)。ただ数人が百%ではないが、普通の人がせいぜい40〜50%止まりの所を、80〜90%は信念と執念の水くれを実行しているのを知っているのみである。またこのことは、その人の水くれの姿を実際に見なくとも、その作品を実地で見たり、写真で見たりすれば、青天白日、一目瞭然とうかがい知ることができる(鉢花というより、山野草作品に於てであるが)。これは多分「なんでも鑑定団」の見立て以上に確実な判断と言ってよいであろう。

 しかし多くの人は、とてもここまで真摯に、神経質にはなっていられない。そこで私は提案する。鉢物へは、なるべく鉢物が水を欲しいなーと思うより、それよりさらにもう少しあとの、水・水・水だァー、水をくれーと叫んだ時に、うえー、もう、もうこれで充分ですだーというまで、つまり鉢穴から水がどくどく流れ出るまで、たっぷりとやることである(それではせっかくの肥料がどんどん流れてしまうではないかというせち辛くも深刻な疑問には後ほど答えるであろう)。これで植物はいたずらに徒長することを押さえられ、なおかつ早期の老化現象というものを招き入れずに済むはずである。

私の所では、私が水をやった時は、まるで大夕立のあとかと思う位に、水が棚から地面へぼたぼたと垂れ続けている。これを棚からボタ餅というのかどうかは知らないが、水をやる時はかくの如く行えば、鉢という限られた器内に根づかざるを得ない植物たちも、葉の大きさを普通より最大50%も小さく締まったものとしながらも、けなげに太陽光線を利用してせっせと炭酸同化作用を営み続け、自らの体を堅牢なものへと築き上げていってくれる。

私の知っている東京麻布で病院を経営している五葉松好きの病院長は、「お前さんとこのような水やりをしていたら、東京じゃ水道代だけでとんでもないことになってしまう」と言っているが、なるほど五葉松なら、あらゆる盆栽樹種の中でも最も水が少なくとも立派に育てることができる。さすが病院長ともなると、水の使用料までびっしり計算しているものなのか。私ときたら、南に荒川が、東に利根川が年中無休の無制限で流れているので計算したことといえばたった一つ、普通の家より2倍は深い井戸を掘るということだけであった。

 ついでに埼玉県深谷市の東南東20km足らずの所に、吹上という町がある。この吹上という地名は、ちょうどこの地の上空で東京湾から吹いてくる東風と、赤城山や榛名山、浅間山から吹き降ろしてくる西風とがぶつかり、ここで風や気流が吹き上がるから「吹上」だと、今は仏教徒なので天国ではなくて極楽から私を見ているだろう地元の校長先生に教わった。私はその説を十数年信じてきた。しかし本当は吹上の地下水脈がとても浅くて、ちょっと穴を掘ればすぐに水が吹き上がるので「吹上」となったという説が正しいそうだ。校長先生、聞こえますかー。吹上は風じゃなくて水がそのいわれだったんですってよー。

 もっともこの深谷という地名だって、市内には仙元山という、へたすると古墳よりまだ低いイボのような凸起が一つあるだけで、あとはどこにも高い所なんてありゃしない。つまり本物の山など一つもないのだから谷なんて絶対にあるわけがない。それをただの谷にあきたらず、ずうずうしくも深の字をくっつけて深谷とは、これいかにである。まあ隣りにはやはり谷がなくて、熊も未だに1匹だって発見されていないのに「熊谷」なんて大ボラを吹いてる市があるのだ。あんまり突っ込まないでおこう。

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