ブルガリアのバラは古来より世界最高の香りを持つといわれてきた。品種はダマセナ種(Rosa Damascena)。トルコ商人が欧州全土に広め、気候風土が一番適したブルガリアで香科を取るためだけに二百年以上前から栽培されるようになった。
滞在したプロブディブという町からバスでバルカン山脈の麓、「バラの谷」と呼ばれている畑へ行った。高さ2メートル位のバラの木に直径5〜6センチのピンクの花弁の多い花が無数に咲いているのが見えた。バスを降りるとそれまでガイドの話そっちのけでおしゃベりしていた人達が一斉に「ウォー」と声にならない叫びをあげそして無口になった。私もバラの畑を渡ってくる風の薫りの素晴らしさに感動しただ立ちつくすばかりであった。
敢えて言葉で表わすなら、良質の柑橘類(べルガモットとレモン)の皮を軽く擦ったようなさわやかな香りと萼(がく)の青っぽい香り、それに花粉の甘く芳醇で官能的な匂いが入り交じり、自然が創った完壁な香水の様で、強烈だが鼻にそして心にここちよく入り込む薫風であった。昔のヨーロッパの王侯貴族がいかなる犠牲を払っても身につけたいと熱望したのはこの香りであったのが理解できた。これほど香りで心が豊かになる旅行は初めてであった。
あゝ、五月のブルガリアヘ行き胸いっぱいにバラの芳香を吸い込みたい。
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