香りのコラム:香りのある風景

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第五回 ラベンダーの香り
文・写真 島崎直樹
記事協力:(株)ワコール「WACOAL NEWS」1999年7月号
 七月の眩しい太陽が容赦なく照りつける南フランス。抜けるような青空それに勝とも劣らない紺碧のラベンダー畑。質量ともに世界一のラベンダーの産地はプロヴァンスである。この地方は気候が温暖で人口密度が低く、農業が主の非常にのんびりとした田舎である。

 芳香植物からの香料抽出、特にラベンダーとそれによく似ているラバンディン(ラベンダーとアスピックの交配種)の産地として知られている。私が調香師の修業時代に住んでいたグラースはプロヴァンスの東の端に位置する。

 グラースからモンテカルロラリーの行なわれる赤茶けた岩山を切り開いた独特のくねくね曲った細い道を二時間ほど行くと一面のラベンダー畑に出くわす。ラベンダーは観光用ではなく香料のために栽培されている。よく知られたラベンダーオイルは花を刈取り数日間日光にさらしてから水蒸気蒸留して採る。

 花の蜜を集めに飛びかう蜜蜂の羽音だけが聞こえる人っ子ひとりいないラベンダー畑に立つと、今は亡き父を思い出す。私が小学生だった頃に父が使っていた整髪料はヒマシ油と蜜蝋で出来た国産のポマードとチック、香りはラベンダーと称していたが、天然のラベンダーとはだいぶ違っていた。

 優しかった父の思い出につながるこの香りが今でも好きであるが、若かった私はさわやかな清潔感あふれる南仏の真正ラベンダーの香りをどうしても父に知ってもらいたくて、先輩の調香師の指導を受け自分で調香したラベンダーのオーデコロンと同じ香りの液体整髪料を研究室で作り日本に送った。

 しかし父がこの香りを気に入ったかどうかは解らずじまいである。せっかく息子が調香しフランスから送ってきたのでもったいなくて封を切れずに、そのまま二十年以上も実家の洗面台に置いたままであったから。

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