香りのコラム:香りのある風景

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第六回 セージの香り
文・写真 島崎直樹
記事協力:(株)ワコール「WACOAL NEWS」1999年8月号
 学生時代に「卒業」という映画を見た。
 画面に流れていた曲の一つがハーブの名前が出てくる「スカボロー・フェア」で、パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイムとサイモンとガーファンクルが歌っていた。

 数年前、南フランスの山々をドライブしているとこの曲がラジオから流れ、しばらくすると偶然にもセージの畑が見えてきた。暑い日の午後であった。収穫の時期を迎え、紫色をしたセージの花はそのまま立ち枯れたかのように乾燥し先端は鋭く刺のようで触ると痛く、風に揺れ互いにふれあい金属片が出すような「シャラシャラ」と不思議な音がしていた。

 セージには様々な品種があるが香料に使われるのはクラリセージ(サルビア属)で水蒸気蒸留し精油を採り、男性用のコロンなどにラベンダー油などと調合されるハーブ系の香りである。

 面白いことに精油を抽出され蒸留釜に残るひなびた藁のようになったクラリセージの亡骸を化学的に処理すると、なんと抹香鯨の腸の結石からの香料アンバーグリス(竜涎香:りゅうぜんこう)と同じ香りの物質を合成することが出来る。ドイツで調香師をしていたとき勤めていた会社がこの合成香料の大量生産に成功した。
 捕鯨が禁止され希少動物保護の運動が盛んになり天然の動物香料が姿を消していくなか貴重な合成香料である。

 アンバーグリスは粉っぽくタバコと動物臭が混じりあったニオイであるが、他の動物香料と同様ほんの少量使われそれ自体は強く出ることはなく、花の香りと調和して全体をコクのある匂いにしてくれる。

 「スカボロー・フェア」を聞くと「卒業」を見た学生時代の夏休みと、刈り取りが終わった畑にクラリセージの香りと動物臭が残り香として漂った暑くけだるい午後のひとときの記憶が重なり合う。

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