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観光客がめっきり減り静けさが再び訪れる九月になると、南フランスでもかすかに秋の気配を感じる。空の色が変化し、それにつれて地中海も深みを増した色彩となる。日照時間が短くなり寂しさを覚える。 そんなある日、早起きをして今年最後のジャスミン摘みを見に行った。まだ太陽が昇る前の暗いうちから作業が始まる。朝露にしっとりと濡れた花は美しくまた馨しい。 |
写真を撮りながら、出稼ぎでイタリアやスペインから来ている人たちに気軽に「いい香りがするね」と声をかけると、我々は大変なんだ、腰は痛くなるし花が軽いのでいくら摘んでも金にならない、割に合わない仕事だと吐き捨てるようにいっていた。彼らには摘んだ花の重さで賃金が支払われている。なかには重さを増やそうと工場へ持っていく前に花に水を掛けたり、葉っぱを紛れ込ませたりするものもいる。そんなことは工場の責任者は知っており、そういう輩には賃金を全く払わない 花はその日のうちに溶剤処理され、香りを凝縮したジャスミンアブソリュートと呼ばれる香料となる。 ジャスミンの花は七月から九月末まで三ヵ月間咲くが、同じ木に咲く花であっても収穫時期によって香りは微妙に違う。 |
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七月の花は少女のように青々しく軽く爽やかな甘みをもった透明感のある香りで、八月の花はバランスが良くジャスミン本来の完璧な匂いをしている。 それらに比べ九月に咲く花は重く厚みがあり、フルーツジャムのような甘さと独特の動物臭が混ざり合い、成熟した女性を想わせる優雅で高級感のある香りを醸し出す。 一般的に白い花は「インドール」という動物臭のする物質を含んでおり、特にジャスミンには多く、清楚な花姿から想像できぬほど妖しく色っぽい香りで昔の人は催淫剤としてこの花を使ったそうである。 艶やかで熟した匂いのする九月のジャスミンが私は好きだ。 |
| 島崎直樹 プロフィール |
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