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「イミテーション」と呼ばれる香りの訓練がフランスであった。絵画の模写と同じで、有名な絵の構図を写し取り、色も忠実に再現し原画に近づける。市販されている名香を嗅ぎ使用されている香料を捜し出す。頼りになるのは自分の鼻だけ、必死に嗅ぎ考え分析する。一つの香水には二〜三百種類の香料原料が入っている。 それがあらまし判明したら次は割合を真似する。レモンの香りはこのくらい、花の香りはローズが多そうとか。これらを調合して手本と比較し違いを見付け修正しながら似た香りを作り先人の調香技術を習得する。 香水は香料を調香しそれをアルコールで希釈したものである。 香料の割合は十五から二十パーセントで残りは純度の高いアルコールである。これを朝から晩まで嗅いでいると、アルコールに弱い私は仕事が終わるころには顔が赤くなりボーとなる。アルコールを鼻から吸収し酔ってしまうのである。この訓練を一年も続けた頃どうも体がだるい。 |
どうやら肝臓をやられたらしかった。飲酒で肝臓を悪くする人はいても、香水を嗅ぎ過ぎて病気になるなんて聞いたことないと同僚のフランス人に笑われた。異国の地で病気をするほど心細いことはない。医者の言っていることが十分に理解できず症状も辞書を片手に説明する。誰も訪ねて来ない部屋のベッドに横たわっているとすべてが悲観的になって会社を二週間も休んでしまった。 ある晩アパートの管理人の太ったおばさんが寝る前に飲むといいよと暖かい飲み物を持ってきてくれた。 秋の月に浮かぶオリーブの木々のシルエットを見ながら飲んだ薄黄色の液体は、ほのかなリンゴの香りとハーブの匂いが混ざり、涙が出るほどおいしく心と体にしみわたった。自家製のカモミルのお茶であった。 |
| 島崎直樹 プロフィール |
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