香りのコラム:香りのある風景

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第十一回 バニラの香り
文・写真 島崎直樹
記事協力:(株)ワコール「WACOAL NEWS」2000年3/4月号
 マダガスカルへ行った。インド洋の西の端、アフリカ大陸の東側にモザンピーク海峡を挟んでマダガスカル島が浮かぶ。面積が日本の一・四倍もある大きな島というより小さな大陸である。首都のアンタナナリボまでパリから直行便で一二時間、とにかく遠い。

 国の北半分が熱帯性気候で、フランスの植民地であった時代から、香料植物の栽培が盛んになり、特にバニラは世界一の生産を誇っている。量だけでなく品質も最高級である。

 バニラは蘭科の植物で、熱帯に生育し春に小さな花を咲かせサヤエンドウのような実をつける。緑色をした実を湯通しし、室(むろ)に入れ発酵させる。天日に当て、手でかき交ぜ乾燥させると、黒褐色のバニラビーンズになり、アイスクリームやチョコレートで良く知られたバニラの香りを強く放出する。

 パリでホテルの朝食にココアを頼んだ。白い制服を着た若いウエイターが、銀製のポットに板チョコを溶かした位のドロっとしたバニラの香りの強いカカオの液体と、別にピッチャーで温かいミルクを用意し、両者をカップに注ぎ好みの濃さのココアを入れてくれる贅沢さを味わった。

 土産に買ったチョコレートも、良質のカカオ豆の濃厚な味わいをバニラの香りが支えていた。この二つの原料ともマダガスカルには豊富にあり、宗主国のフランスでは誰もが賞味出来る。
 しかし悲しいかな産地の人々はほとんど口にすることはない。経済的にとても貧しく、外貨獲得のため主要な農産物は、輸出に回している為である。

  マダガスカルで出会った畑や工場で、バニラの匂いにまみれて働く人々は、明るく屈託がなく、笑顔が美しく親切であった。
 仏語の「douceur」、英語の「sweet」は「甘い」とだけではなく、優しい、親切などとも訳される。
 バニラの甘い香りには、人を優しくする力があるのかもしれない。

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