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童話劇「青い鳥」の作者でノーベル賞作家メーテルリンクの本「花の知性」がある。今世紀初頭に書かれ、欧州のキリスト教社会では珍しく植物を擬人化し、花には人と同じく忍耐力や自尊心があるらしいと著者は記している。 香りについては、彼が別荘を持っていた南仏の香料の街、グラースで残酷にも花の魂から香りを取り去り亡骸とする様子が描かれ、アンフロラージュ法(冷浸抽出法)を説明している。 |
原文には獣脂とだけ書いているが、牛脂と豚脂を六対四で混ぜ、木の枠にはめたガラス板の上に指二本分の厚さに伸ばし、花を一輪一輪手で並べ、脂に香りを吸収させる。香りをたっぷりと含んだ獣脂にアルコールを混ぜ、アルコールに香気成分を移し採る抽出法である。加熱しないので、咲いている花の香りそのものが抽出できるが、収率が悪いので現在は行われていない。二十年位前までこのやり方で作られていた最後の香料がチュベローズであった。アマリリス科の球根植物で栽培に手間がかかりデリケートな花である。 |
昨年マダガスカル島を旅行中、チュベローズを見かけた。月下香(ゲッカコウ)と呼ばれるこの花が一番魅力的な夜にもう一度畑へ行ってみた。 熱帯の夜気と共に鼻腔に侵入してくる香りは、ジャスミンやクチナシをフルーティにしたようで、甘く、しっとりとして妖艶である。白い花が悩ましげに開き、漆黒の闇夜に浮かび、夜行性の昆虫だけでなく、私まで誘惑されそうである。 六十年代のハリウッド映画で観た、「知性」とは対角線上にいる、金髪で大きな胸をした女性の白い肌に似合いそうな、なまめかしく艶やかな匂いであった。 |
| 島崎直樹 プロフィール |
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