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実は前回も同じカンヌと香料の街グラースの共同開催であり、大変好評であったので再びこの地でということになった。
いつものことながらコート・ダ・ジュール(紺碧海岸)へ来たことを嗅覚で実感する。 カンヌの海岸に近いホテルは観光客であふれかえっており、クロワゼットと呼ばれる海岸通りを歩くと、プライベートビーチには色とりどりのパラソルが紺碧の海を背景に咲き、沖には大きなヨットや豪華な客船が錨を下ろして、世界中の富がこの地に集まっているかの印象を受ける。
講演等は午前中で終わってしまい、後は殆ど自由なので、昔住んだグラースの大家のおばさんを訪ねると、足が不自由となり寝たきりになっていた。 八十六才で身寄りのない彼女は、わざわざ来てくれたかと涙を流して喜んでくれた。当時はまだ五十代で香料会社の電話交換手として働き、私が病気になった時など大変世話になった恩人である。
赤い果肉は香りが素晴らしく果汁が多く、塩味の生ハムとぴったりである。
私が二十代半ばの頃から何百枚の、いや千枚以上もの写真を撮った思い出の深い場所なのにもう二度とあの美しく咲き乱れたピンクの花姿を見ることはないであろう。 この畑は十九世紀末から百年以上香料用のセンティフォリア種を栽培していたのだが、採算に合わなくなったので放置された様である。灌漑用のパイプ等もそのまま残っている。人間に運命を振り回されている花を見るのはとても辛かった。誰もいない静まり返った畑に咲く花はあまりに哀れであったので、少しでも楽しんでやろうと数輪ホテルに持ち帰りコップに生けた。 その夜、部屋は芳香で満たされ、バラの香りの鎮静効果の為か少し気分が楽になった。
現在はウィーンで東欧向けの調合香料を作っていて、旧共産圏の香りの嗜好性の話をしてくれた。家族同士の付き合いだったので、ご家族はお元気ですかと聞くと、白髪の多くなった彼の顔色が変わり奥様が八年前に自らの命を絶ったと聞かされ、いつもは軽くフルーティで美味しい地元のプロヴァンスワインの香りが急に重く感じられた。 悲しい再会が多く、時の流れの残酷な臭気を嗅がされた旅であったが、南仏の空と海は今も変わらず紺碧に輝き旅人を迎える。 |
| 島崎直樹 プロフィール |
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