調香師の香り紀行「マダガスカル」 home

文・写真 島崎直樹
フランス調香師協会の「香りの道」
マダガスカル旅行に参加して
「香料」第205号(2000.3)別冊

第五回  タマタベ(Tamatave)〜サンババ(Sambava)

● 9月26日
 またまた朝早くホテルを出発、飛行機でサンババ(Sambava)へ。
 海辺の椰子の木の下にあるホテルで遠目にはいいが、冷水しか出ないシャワーが有るのみで部屋はとても汚い。段々ホテルの質が落ちてくるようでこの先が思いやられる。

 バニラで有名なLOPAT社見学。このバニラ処理工場は華僑の人が経営していて観光客にも開放している。バニラはこの地方の貴重な農産物で、ラジオの放送局の名が「FM VANILLE」と称しているほどである。工場では処理法の説明を受けたが、私は写真を撮るのに忙しく詳しくは聞きもらした。


バニラの天日乾燥
 概要は、インゲン豆のような収穫したてのまだ緑色をしたバニラビーンズを60度位で湯通した後に室(むろ)に入れ発酵させる。その過程でバニリンが生成されあのバニラの香りになり、色も黒褐色となる。その後天日に晒(さら)し水分を蒸発させ更に熟成させる。一般的に長いほうが価値が高く工場では一本一本手で計り長さを揃えていた。


バニラの長さを計っている
 バニラは蘭科の植物で直射日光を好まず大木の下に植えられている。自立することが出来ず1.5m位の高さにしてある添え木に絡まって成長する。訪問した9月末は南半球の春先にあたり、バニラのまだ固い蕾は幾つか見たが、結実したバニラビーンズはもちろん花も見ることができなかった。非常にがっかりしていたら、マダガスカルを良く知るブルレ(Brulé)氏が移動中の車のなかで奇声を上げ車を止めさせた。森の中になんと一輪だけであるがバニラの花が咲いているではないか。バスの中から良くぞ見つけてくれたと感謝した。


バニラの花
 大木の葉影の下、薄暗い中で小さなその一輪が輝いてみえた。薄緑色の花弁が3cmもなく、中心部がほのかに黄色く染まっている可憐な花である。必死で写真を撮った。調香師としては非常に恥ずかしいことだが、あまりに舞い上がってしまったので花の香りを嗅ぐのを忘れてしまった。接写するのでかなり近づいたが、香りの記憶がないというのはそう香りの強い蘭ではないのではないであろうかと思っている。もし次回があるとすれば必ず香りを確かめたい。
 気がつくと回りには誰もいなくなり、バスが警笛を鳴らし次の予定地へ時間がないので早くしろと催促している。三脚をたたみながら戻るとまたNAOKIが写真を撮っていて遅れたと笑いながらフランス人独特の肩をすぼめる仕草でからかわれた。この頃になるとグループの人たちとも打ち解け、互いに冗談を言えるようになった。
 ホテルに帰り水のシャワーを浴びてさっぱりし、食前酒を飲みながら皆でお喋りをした。
 フランス人はよく話をする、というよりおしゃべりが大好きな国民で、たわいのないことをいつまでも話している。これも旅の楽しみの一つだと思い私も出来るだけ会話を楽しむようにした。

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