調香師の香り紀行「マダガスカル」 home

文・写真 島崎直樹
フランス調香師協会の「香りの道」
マダガスカル旅行に参加して
「香料」第205号(2000.3)別冊

第六回  サンババ(Sambava)〜ノジベー(Nosy-Be)

● 9月27日
 SOAVOANIO社の広大な椰子のプランテーションを見学に行き、椰子に雌雄があるのを初めて知った。人工受粉、収穫、その後の様々な加工をほとんど人手によって行っている。強い直射日光の下、12時間以上かかって椰子の固い皮を100個剥くような過酷な労働で日当はわずか100円程度。椰子の葉で屋根を葺いた粗末な小屋に家族全員で住んでいる。もちろん電気は来ていない。移動の自由はあるが、現代の奴隷制度を見ている気がしてカメラを向けるのをためらったが、あまりに彼らの笑顔が美しかったので、許可を得てからシャッターを押した。屈託がなく人なつっこい魅力的な人たちである。

 いつものことながら飛行場へは早く着いたので土産店を覗くと、アンモナイトの化石をうそのような値段で売っていた。私が二つ購入すると同行の人がここはとても高い、町の市場で買ったほうがよいと教えてくれた。そうこうしているうちに搭乗案内があり機内に入るとすでに座席はほぼ満員状態。私はやっと最後尾に座席を見つけたが、仲間5人があぶれてしまった。もちろん予約をし再確認までしてあるのだが、なんともしようがなく、エアーマダガスカルが次の日に小型飛行機で5人を送ってくれることになった。
 これが話に聞いていたオバーブッキングというものかと驚いた。どうせ全員は搭乗しないであろうとたかをくくっているのと、係員が賄賂を貰い満員であっても発券してしまう場合があるそうで、今回はどうも後者らしく2時間遅れでノジベー(Nosy-Be)に着いた。


イランイランの木
 生まれて初めてみるイランイラン(Ylang Ylang)に感激をしつつ、想像していたような強烈な香りがしないので多少ガッカリした。
 小高い丘が幾重にも連なり、太い樹齢数十年のイランの樹が、地面にのたうつかのごとく這っている。本来なら高さ10メートル以上になる大木だが、花を収穫しやすくするため低くしてある。


イランイランの花と蕾
 枝に緑色したつぼみと開きかけの花がびっしりとついている。花は一年中咲き、開花すると丸まっていた花びらが段々伸びだし成熟するにしたがって色も緑から黄色に変化する。花弁の付け根のあたりにインドールの酸化による赤い斑点が浮かび上がると香りが強くなる。


イランイランの木にいるカメレオン
 イランイランの木々の中にカメレオンがいた。体長25cmくらいで鮮やかな緑色をしていたが、黒いTシャツを着ている人の肩に乗せると1分もしないうちに色が段々濃くなり黒っぽくなった。眠たそうな目をしてコマ送りのようなユーモラスな動作でゆっくりゆっくりと動く。

 畑に隣接し蒸留工場がある。イランイランは私の知る限り分留する唯一のエッセンシャルオイルで、実際に蒸留中にかなり細かく時間ごとにサンプルを採取していた。ここではイランイランの水蒸気蒸留の他にヘキサンによる溶剤抽出もしておりイランイランコンクリート(Ylang Ylang Concrete)も作っているとのことだが実物は見せてもらえなかった。見学を終わると辺りはもう真っ暗、バスでホテルへ行くが停電で何も見えず、ロウソクの火で部屋に案内された。


イランイランの花を蒸留釜に入れる作業
● 9月28日
 イランイラン畑に行き花の摘み取り作業を見学し、昨日とは別の薪を燃料にした原始的なイランイラン蒸留工場で写真を撮っていると、不運なことに2台のカメラの電池が殆ど同時に切れてしまった。ホテルには予備を持っているのだが、タクシーをチャーターしても往復2時間近くかかるといわれあきらめ、その後は全く写真を撮れず自分の不注意に腹がたった。
 幸いにもこの日の午後は休息に当てられ、近くの無人島へボートで行き、珊瑚礁の椰子の木陰でピクニック、冷えたワインを飲んでノンビリと昼寝をした。
 遠くに白いヨットが浮かび、夕暮れには大きな太陽が沈み、あかね色に染まった空は息をのむほど美しかった。

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